第1部では、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの2026年3月期決算を比較しました。
同じメガバンクといっても、利益構造には違いがあります。
三菱UFJは、国内銀行業務に加えて、Morgan Stanleyからの持分法利益が大きい。
三井住友FGは、収益性と効率性の高さが目立つ。
みずほFGは、かつての低収益イメージから脱却しつつあるものの、株価の戻り方にはまだ重さも感じる。
第2部では、三菱UFJとMorgan Stanleyの関係を整理しました。
2008年の金融危機の中で、三菱UFJはMorgan Stanleyに90億ドルを出資しました。
当時としては、日本企業とは思えないほど果断な決断でした。
そして、その出資は現在の三菱UFJの利益構造にもつながっています。
では、第3部では何を見るのか。
今回は、リーマンショック後に3メガバンクが行った大規模増資を整理します。
銀行にとっては、自己資本を厚くし、金融危機後の規制強化に備えるために必要な増資でした。
ただ、株主の立場から見ると、話は少し違います。
大量の新株発行は、既存株主にとって希薄化を意味します。
株数が増えれば、1株あたり利益、つまりEPSは薄まります。
利益が回復しても、EPSが簡単には戻らない。
EPSが戻らなければ、株価も過去の水準には戻りにくい。
自分はメガバンク株を保有しています。
しかも、付き合いは最近始まったものではありません。
リーマンショック前から保有していた銘柄もあり、金融危機後の下落や、その後の長い低迷も経験してきました。
当時は、銀行株に対してどこか安心感がありました。
日本を代表する大型株。
景気が回復すれば、いずれ株価も戻る。
配当もあるので、長く持っていれば報われる。
そんな感覚で保有していました。
しかし、現実は簡単ではありませんでした。
リーマンショック後、株価が大きく下がったあとに、メガバンク各社は大規模な増資を行いました。
銀行としては必要な対応だったと思います。
ただ、株主としては苦い経験でした。
株数が増えれば、1株あたり利益は薄まります。
その結果、業績が回復しても、株価はなかなか元の水準に戻らない。
当時の自分は、EPSや希薄化をそこまで深く理解していたわけではありません。
「なぜ、これだけ大きな銀行なのに株価が戻らないのか」
「なぜ、相場全体が戻っても銀行株は重いのか」
そう感じながら、長い間保有していた記憶があります。
今回の記事は、その苦い経験を、今になって改めて整理するための記録でもあります。
リーマン後、銀行はなぜ資本を必要としたのか
まず、なぜメガバンクは大規模な増資をしなければならなかったのか。
理由は大きく3つあります。
1つ目は、保有株式や海外金融機関への出資に関する評価損です。
リーマンショック後、世界の株式市場は大きく下落しました。
銀行は多くの政策保有株や金融関連資産を持っています。
株価が下がれば、それらの評価損が自己資本を削ります。
2つ目は、景気悪化による与信費用の増加です。
企業業績が悪化すれば、貸出先の信用リスクが高まります。
銀行は貸倒引当金を積み増す必要があり、不良債権処理費用も増えます。
3つ目は、国際的な自己資本規制の強化です。
金融危機後、銀行にはより厚く、より質の高い自己資本が求められるようになりました。
単に利益を出しているかどうかだけでなく、危機時に損失を吸収できる資本を持っているかが問われるようになったのです。
みずほFGの場合、2009年3月期の赤字修正では、与信関係費用が従来予想比で2300億円増え、5600億円となる見込みとされていました。
さらに株式関係損益も大きく悪化し、最終赤字は5800億円規模となりました。
銀行にとって、自己資本は信用そのものです。
自己資本が薄ければ、貸出余力も落ちます。
市場からの信用も落ちます。
最悪の場合、金融システム全体への不安にもつながります。
だからこそ、リーマン後のメガバンクにとって増資は避けにくい選択でした。
ただし、それは銀行側の理屈です。
株主から見ると、増資はかなり重い出来事でした。
三菱UFJの増資|Morgan Stanley出資の裏側で進んだ資本増強
まず、三菱UFJです。
三菱UFJは、2008年10月にMorgan Stanleyへの出資を実行しました。
これは第2部で整理した通り、現在の三菱UFJの利益構造につながる重要な投資です。
ただ、その一方で、三菱UFJ自身も資本増強を行っています。
三菱UFJの主な増資
- 2008年12月:普通株式6億3480万株を発行
- 発行価格:1株417円
- 公募増資後の普通株式数:115億6847万9680株
- 2009年12月:23億3700万株を発行
- 発行価格:1株428円
- 手取概算額の上限:約1兆260億円
- 増資後の普通株式数:139億8541万4920株
調達資金の使途は、三菱東京UFJ銀行への出資に充当し、グループの財務基盤の安定化を図るというものでした。
三菱UFJについては、Morgan Stanleyへの出資だけを見ると「危機の中で攻めた銀行」という印象が強くなります。
ただ、その裏側では、自己資本を厚くするための大規模な普通株増資も行っていました。
つまり、三菱UFJはリーマン危機の中で、攻めと守りを同時に行っていたことになります。
Morgan Stanleyへの出資は、長い目で見れば大きな成果につながりました。
一方で、既存株主にとっては、増資による希薄化という負担もありました。
三井住友FGの増資|赤字転落と成長投資が重なった資本増強
次に、三井住友FGです。
三井住友FGは、2009年4月に2009年3月期の最終赤字見通しを発表しました。
連結純損益は3900億円の赤字見込み。
前回予想は1800億円の黒字だったため、かなり大きな下方修正でした。
同時に、最大8000億円の普通株増資方針も発表しています。
理由は、株安や不良債権処理による損失の拡大です。
公的資金に頼らず、財務健全化を優先するための増資でした。
三井住友FGの主な増資
- 2009年6月:発行株数は最大2億3500万株
- 発行価格:1株3928円
- 増資額:最大9230億円規模
- 希薄化:約30%
- 2010年1月:募集株数3億4000万株
- 発行価格:1株2804円
- 発行価格の総額:9533億6000万円
調達資金は、全額を三井住友銀行の資本増強に充てるとされています。
三井住友FGの増資は、守りだけではありませんでした。
もちろん、金融危機後の自己資本強化という面はあります。
しかし同時に、海外ビジネスや投資銀行ビジネスの強化、証券業務の拡大といった成長戦略のための資本増強という色もありました。
ここは三菱UFJやみずほとは少し違うところです。
ただ、株主から見れば、やはり重い増資であることに変わりはありません。
2009年に約30%の希薄化。
さらに2010年にも大型増資。
銀行としては必要だったとしても、既存株主にとっては、1株あたり利益が薄まる大きな出来事でした。
みずほFGの増資|一番遅く、一番多く、そして赤字も一番大きかった
そして、みずほFGです。
今回調べていて、一番重く感じたのはみずほでした。
3メガバンクはいずれも、リーマン後に大規模な増資を行っています。
しかし、みずほは1回目も2回目も、3メガバンクの中で一番最後に増資をしています。
3メガバンクの増資タイミング
1回目の大型増資では、三菱UFJが2008年12月、三井住友FGが2009年6月、みずほFGが2009年7月。
2回目の大型増資では、三菱UFJが2009年12月、三井住友FGが2010年1月、みずほFGが2010年7月。
つまり、みずほは2回とも後追いで大規模増資を行った形です。
しかも、発行株数の規模が非常に大きい。
みずほFGの主な増資
- 2009年7月:発行価格は1株184円
- 調達額:差引手取概算で上限5264億円
- 発行株数:公募で28億440万株
- 追加売り出し分:上限1億9560万株
- 2010年7月:発行価格は1株130円
- 発行株数:56億900万株
- 差引手取概算額:7480億円規模
- 普通株式数:155億1581万4530株から211億2481万4530株へ増加
2010年の増資では、当初、最大60億株規模の公募増資が計画され、発行済株式総数は最大で約38%増えると報じられていました。
もちろん、株価水準が違うため、発行株数だけで三菱UFJや三井住友FGと単純比較するのは危険です。
しかし、普通株数の増加という意味では、みずほの増資は非常に重いものでした。
さらに、リーマンショック時のダメージも大きかった。
みずほFGは、2009年3月期に5800億円の最終赤字に転落する見通しを発表しました。
三井住友FGの赤字見通しは3900億円、三菱UFJの赤字見通しは2600億円でした。
この3社の中では、みずほの赤字幅が最も大きかったことになります。
みずほの場合、リーマン後の増資だけではありません。
2003年の不良債権処理時代に行った優先株の問題もありました。
その重さを引きずったまま、リーマン後にも再び大規模な普通株増資を行った。
ここが、みずほ株を見るうえで非常に重要だと思います。
EPSはなぜ戻りにくいのか
ここで、EPSについて整理します。
EPSは、1株あたり利益です。
EPS = 純利益 ÷ 発行済株式数
つまり、純利益が同じでも、株数が増えればEPSは下がります。
たとえば、発行済株式数が20%増えた場合、純利益が変わらなければEPSは約17%下がります。
30%増えれば、EPSは約23%下がります。
38%増えれば、EPSは約28%下がります。
銀行全体としては、増資によって自己資本が厚くなります。
経営の安全性は高まります。
金融危機後の規制にも対応しやすくなります。
しかし、既存株主から見ると、自分の持ち分が薄まります。
同じ利益を出しても、その利益を分け合う株数が増えている。
だから、1株あたりの取り分は減る。
これが、増資による希薄化です。
しかも、銀行は急成長企業ではありません。
メガバンクは、利益が一気に何倍にもなるようなビジネスではありません。
金利上昇や手数料収入の拡大で利益は伸びますが、基本的には巨大な成熟企業です。
そのため、一度大きく株数が増えると、EPSを元に戻すには長い時間がかかります。
利益を増やす。
自社株買いで株数を減らす。
配当を増やして株主還元を強める。
そうした取り組みを積み重ねて、ようやく1株あたりの価値が回復していきます。
保有株としてメガバンクを見る視点
今回、リーマン後の増資を改めて調べてみて、自分の過去の投資経験ともかなり重なりました。
自分はリーマンショック前からメガバンク株を保有していました。
当時は、銀行株に対して、どこか安心感を持っていました。
日本を代表する大手銀行であり、配当もある。
一時的に株価が下がっても、景気が戻ればいずれ回復するだろう。
そんな感覚で保有していました。
しかし、実際には長い低迷が続きました。
リーマンショックで株価が下がる。
その後、銀行は資本を厚くするために増資を行う。
増資によって株数が増える。
株数が増えれば、EPSは薄まる。
その結果、業績がある程度回復しても、株価はなかなか戻らない。
当時は、そこまで明確に理解できていたわけではありません。
ただ、株主としての感覚では、確かに重さを感じていました。
「なぜ、景気が戻っても銀行株はこんなに戻らないのか」
「なぜ、配当をもらっていても、株価の回復がこんなに鈍いのか」
今振り返ると、その理由の一つが、リーマン後の大規模増資だったのだと思います。
もちろん、銀行にとって増資は必要でした。
自己資本が足りなければ、金融機関としての信用を維持できません。
危機後の規制強化にも対応できません。
ただ、既存株主にとっては、やはり重い出来事でした。
株価が下がったあとに増資が行われる。
安い株価で大量の新株が発行される。
その分、1株あたり利益は薄まる。
これを経験すると、銀行株を見る目は変わります。
今のメガバンクは、以前とはかなり見え方が変わりました。
マイナス金利が解除され、金利上昇の恩恵が期待されています。
銀行の本業である利ざや改善にも追い風が吹いています。
増配や自社株買いもあり、株主還元の面でも魅力が増しています。
その意味では、いまのメガバンク株は、かなり面白い投資対象だと思っています。
ただし、単純に「利益が増えているから株価も上がる」とだけ考えるのは危険です。
見るべきは、純利益だけではありません。
EPSを見る必要があります。
発行済株式数を見る必要があります。
過去にどれだけ増資をしたのかを見る必要があります。
リーマンショック後の増資は、3メガバンクすべてに共通する出来事です。
三菱UFJも増資をしました。
三井住友FGも増資をしました。
みずほFGも増資をしました。
ただ、同じ増資でも、その後の見え方には違いがあります。
三菱UFJは、Morgan Stanleyへの出資が現在の利益構造につながっています。
三井住友FGは、収益性の高さや株主還元の強さが目立ちます。
みずほは、過去の増資による株数増加の影響が、株価やEPSを見るうえで比較的意識されやすい銘柄だと感じます。
みずほは、2020年に10株を1株にする株式併合を行っています。
このため、現在の株価だけを見ると、過去との比較が少し分かりにくくなっています。
ただ、株式併合は見た目の株価を変えるだけです。
企業価値そのものを増やすわけではありません。
だからこそ、みずほを見るときは、現在の株価だけでなく、過去にどれだけ株数が増えたのか、EPSがどこまで回復しているのかも意識しておきたいと思いました。
みずほ株を見るうえで残る論点
みずほについては、もう一つ意識しておきたい点があります。
それは、過去の株価水準との比較です。
みずほは2009年、2010年に大規模増資を行い、その後、2020年には10株を1株にする株式併合も行っています。
そのため、過去の高値と現在の株価を単純に見比べるだけでは、実態がつかみにくい部分があります。
重要なのは、株価の見た目ではなく、1株あたり利益がどこまで回復しているかです。
ここは、みずほ株を長期で見るうえで、今後も確認していきたいポイントです。
まとめ|銀行には必要だったが、株主には重かった
リーマンショック後の大増資は、銀行にとっては必要なものでした。
金融危機で自己資本が傷み、保有株の評価損や与信費用が膨らみ、さらに国際的な自己資本規制も強化される。
その中で、メガバンクが普通株増資によって資本を厚くしたのは、ある意味では当然の対応だったと思います。
資本が足りなければ、銀行はリスクを取れません。
貸出も伸ばせません。
市場からの信用も維持できません。
銀行として生き残るためには、増資は必要だった。
ただし、株主にとっては別です。
大量の新株発行は、既存株主の持ち分を薄めます。
株数が増えれば、EPSは下がります。
EPSが下がれば、利益が回復しても株価は簡単には戻りません。
今回整理した3メガバンクの特徴
三菱UFJは、Morgan Stanleyへの出資という攻めの決断を行う一方で、自身も大規模な資本増強を行っていました。
三井住友FGは、赤字転落に対応しながら、証券・海外・投資銀行ビジネスへの成長投資も意識した増資を行っていました。
みずほFGは、3メガバンクの中でリーマンショック時の赤字が最も大きく、2009年・2010年の増資も後追いで、発行株数の規模も大きいものでした。
自分自身、リーマン前からメガバンク株を保有し、その後の株価低迷を経験してきました。
当時は、なぜ銀行株がここまで戻りにくいのか、はっきりとは分かっていませんでした。
でも今になって振り返ると、大規模増資によるEPSの希薄化は、かなり大きな要因だったのだと思います。
今のメガバンクは、金利上昇、増配、自社株買いという追い風があります。
自分自身も保有株として期待しています。
ただ、過去の増資の傷跡を知ると、決算を見る目は少し変わります。
見るべきは純利益だけではない。
EPSを見る。
発行済株式数を見る。
自社株買いを見る。
配当余力を見る。
そして、過去の希薄化をどこまで取り戻しているのかを見る。
メガバンク株は、単純に高配当だから買う、金利上昇だから買う、というだけではなく、過去の資本政策まで含めて理解したほうがよい銘柄だと思います。
今回の記事は、自分が保有してきたメガバンク株を、もう一度きちんと理解するための整理でもありました。
投資に関するご注意
本記事は、筆者自身の投資経験や売買記録をもとにした個人的な振り返りであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。 株式投資には元本割れのリスクがあり、最終的な投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

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