2026年7月、三菱UFJフィナンシャル・グループの時価総額が、終値ベースで日本企業の首位になりました。
長く銀行株を見てきた自分にとって、これは単なる一日のランキングではありません。
私はリーマン・ショック前から、銀行株を投資の中心にしてきました。銀行は日本経済の基盤であり、大手行なら簡単には揺らがない。配当を受け取りながら保有できる大型株でもある。そんな感覚で投資していました。
しかし、その後に待っていたのは金融危機、巨額増資、超低金利、そしてマイナス金利です。
銀行株がこれほど長く低迷し、再び日本株の主役へ戻るまで十数年を要するとは、当時は想像していませんでした。
・三菱UFJが日本企業の時価総額1位になった
・リーマン後の巨額増資で、1株当たりの価値が希薄化した
・低金利とマイナス金利で、銀行株は長く評価されなかった
・私は低迷期にも三菱UFJや三井住友FGの買い増しを続けた
・2020年末に18位まで落ちた三菱UFJが、2026年に首位へ復帰した
リーマン・ショックで前提が崩れた
2008年のリーマン・ショックでは、世界の金融市場が大きく混乱しました。
銀行株を主力にしていた自分にとっては、「大手銀行を持っていれば安心」という前提が崩れた時期です。金融機関は経済を支える側である一方、危機が起きれば、その中心にもなります。
株価が下がっただけではありません。
市場からは、銀行がどれだけ損失を抱え、十分な自己資本を維持できるのかが厳しく問われました。メガバンク各社は、金融危機を乗り越えるために大規模な資本増強へ動きます。
それまで銀行株を比較的安定した大型株と見ていた自分にとって、銀行そのものの健全性が疑われる状況は想定外でした。
生き残るための増資と株主価値の希薄化
三菱UFJは金融危機後、約1兆円規模の普通株増資を実施しました。
自己資本を厚くし、厳しい環境を乗り切るためには必要な判断だったのでしょう。ただし、銀行にとって必要な増資でも、既存株主にとって歓迎できることばかりではありません。
新しく大量の株式を発行すれば、発行済み株式数が増えます。会社全体の利益が同じなら、その利益を以前より多くの株式で分けることになり、1株当たり利益は薄まります。
増資によって銀行の安全性は高まりました。一方で、発行済み株式数が増えたことで、既存株主の1株当たり利益や1株当たりの価値は希薄化しました。
金融危機を乗り切るための資本増強と、株主価値の低下は表裏一体でした。
株価が以前の水準へ戻るだけでは、完全復活とはいえません。増えた株式数を上回るほど利益を成長させなければ、1株当たりの価値は戻らないからです。
この増資の重さは、その後も長く銀行株の評価に残ったと思います。
金融危機を越えても株価は戻らなかった
リーマン・ショックを乗り越えれば、銀行株はいずれ回復する。
当時はそう考えていました。しかし、金融危機が落ち着いても、本格的な復活はなかなか訪れませんでした。
次に銀行を苦しめたのは、日本で長く続いた低金利です。
預金などで集めた資金を企業や個人へ貸し出し、その金利差を得ることは銀行の基本的な収益源です。金利が低下すると貸出金利も下がり、利ざやが縮小しやすくなります。
国内経済の低成長も重なり、銀行は利益を出していても株式市場では評価されにくい状態が続きました。
株価純資産倍率が低く、配当利回りも高い。それでも株価は上がらない。
割安だから買われるのではなく、「銀行だから割安なままで当然」と見られているような時期が続きました。
マイナス金利で「銀行株は上がらない」が定着した
2016年、日銀はマイナス金利政策を導入しました。
景気や物価を押し上げるための金融緩和策でしたが、銀行株の投資家から見ると、収益環境をさらに厳しくする政策として受け止められました。
問題は制度の細部より、金利の低い状態が長く固定され、銀行が貸出や運用で利益を得にくくなったことです。
配当は出ている。利益も出ている。それでも株価はなかなか評価されない。
長く保有するうちに、自分の中でも「銀行株は上がらないもの」という感覚が強くなっていました。
割安だから買う。しかし、割安な状態が何年も続く。業績が改善しても、株価は再び安い水準へ戻る。
銀行株は、万年割安株の代表になっていました。
時価総額順位から分かる銀行株の低迷
メガバンクの評価がどれほど変化したのかは、東証の時価総額ランキングを見ると分かりやすいです。
毎年の順位をすべて並べると細かくなりすぎるため、銀行株の転換点となった年に絞りました。
| 基準時点 | 三菱UFJ | 三井住友FG | みずほFG | 当時の状況 |
|---|---|---|---|---|
| 2017年末 | 2位 | 9位 | 16位 | マイナス金利下でも三菱UFJは上位 |
| 2020年末 | 18位 | 27位 | 36位 | コロナショックと超低金利で大幅後退 |
| 2022年末 | 4位 | 10位 | 28位 | 金利上昇への期待が出始める |
| 2024年末 | 2位 | 8位 | 18位 | マイナス金利解除で評価が上昇 |
| 2025年末 | 2位 | 6位 | 12位 | 3社とも上位へ復帰 |
| 2026年7月 | 1位 | 6位 | 10位 | 三菱UFJが首位、3社がトップ10入り |
※各年末および2026年7月の終値を基準とした時価総額順位です。
三菱UFJは以前にも時価総額2位まで上昇しており、突然上位に現れた企業ではありません。
それでも、2020年末には18位まで順位を落としていました。三井住友FGは27位、みずほFGは36位です。
メガバンク3社すべてがトップ10から姿を消し、銀行株が日本株の主役とは言いにくい時期でした。
そこから三菱UFJは2022年末に4位、2024年末に2位へ戻り、2026年7月に首位へ到達しました。三井住友FGとみずほFGも順位を上げ、メガバンク3社がそろってトップ10に入っています。
今回の首位は、一直線に上昇した先の到達点ではありません。2020年末には18位まで評価を落とした三菱UFJが、そこから首位へ戻ったことに「復権」の大きさがあります。
低迷期にも銀行株を買い増した
それでも私は、銀行株を手放すのではなく、買い増しを続けました。
特に大きく買い増したのは、株価が急落した2020年のコロナショック前後です。三菱UFJや三井住友FGを中心に保有株数を増やし、その後も銀行株を資産の中心に据えてきました。
当時の銀行株は、将来の利益成長を期待して買われる銘柄ではありませんでした。景気悪化による貸倒れへの不安もあり、金利が上がる兆しもほとんどありません。
それでも、国内最大級の預金基盤があり、企業や個人との取引関係も簡単には失われない。低金利下でも利益を確保し、配当を続けている。
そして、いつになるかは分からなくても、金融政策が正常化すれば、収益環境も変わる可能性があると考えていました。
ただし、現在の上昇を正確に予想していたわけではありません。
「低金利が永遠に続くわけではない」とは考えていましたが、三菱UFJがトヨタを抜き、時価総額首位になるところまで想定していたわけではありません。
結果だけを見れば、低迷期の買い増しは大きく報われました。
しかし、他の成長株や半導体株が上昇するなかで、何年も評価されない銀行株へ資金を置き続けることには機会損失もありました。銀行株を買うより、ほかの銘柄を持った方がよかったと思う場面も何度もありました。
それでも買い増したのは、短期的な株価より、事業基盤と配当、将来の金利正常化を見ていたからです。
マイナス金利解除で評価が変わった
2024年3月、日銀はマイナス金利政策を解除しました。
ここから銀行株を取り巻く環境は大きく変わります。
金利が上昇すれば、貸出金利と預金金利の差が広がり、国内の資金利益は改善しやすくなります。保有する資金を、以前より高い利回りで運用できる可能性もあります。
もちろん、金利上昇が銀行にとって良いことばかりではありません。
保有債券の価格下落、預金金利の上昇、景気悪化による貸倒れなどのマイナス要因もあります。金利が上がれば、無条件で銀行の利益が増えるわけではありません。
それでも、金利がほとんど存在しないことを前提に経営していた時代から、金利のある世界へ戻る意味は大きいものです。
銀行の利益拡大への期待に加え、増配や自社株買いも評価されました。長く割安株として放置されてきた銀行株への見方は一変します。
以前は、利益が増えても「どうせ低金利が続く」と見られていました。現在は、金利正常化が続けば、利益成長も続くのではないかと期待されるようになっています。
三菱UFJは金利だけで首位になったわけではない
三菱UFJの評価上昇は、国内金利の正常化だけで説明できるものではありません。
国内最大級の預金基盤に加え、海外の貸出事業やモルガン・スタンレーへの出資、資産運用、決済や手数料収益など、国内金利以外の利益源もあります。
三井住友FGやみずほFGも大きく順位を上げていますが、そのなかでも三菱UFJが首位まで到達した背景には、事業規模と利益基盤の広さがあります。
金利上昇という追い風に、利益拡大、増配、自社株買いが重なり、長く続いた割安評価が修正されたのでしょう。
「低金利でも利益を出す銀行」から、「金利正常化によってさらに利益を伸ばせる銀行」へ、市場の見方が変わったのだと思います。
時価総額1位でも増資の歴史は消えない
三菱UFJが時価総額1位になったことは、銀行株復権の象徴だと思います。
ただし、「完全復活」とだけ書くのは少し違います。
時価総額は、株価に発行済み株式数を掛けて算出します。リーマン後の増資で株式数が増えたからこそ、現在の大きな時価総額があるという面もあります。
時価総額が首位になったからといって、過去の増資による希薄化がなかったことになるわけではありません。
本当に株主価値が高まったかを見るには、時価総額だけでなく、1株当たり利益、1株当たり配当、ROE、自社株買いによる株式数の減少も確認する必要があります。
今後も利益を伸ばし、それを1株当たり利益と配当へつなげられるかが、次に問われます。
銀行株が再び評価される時代になった
リーマン前から銀行株を主力にしてきた自分にとって、三菱UFJの時価総額1位は、単なるランキングの変化ではありません。
金融危機後の巨額増資、株主価値の希薄化、長期化した低金利、そしてマイナス金利。その間も、私は銀行株の買い増しを続けました。
ここまでの上昇を最初から見通していたわけではありません。
それでも、2020年末には18位まで後退していた三菱UFJが、日本企業の首位に立ったことには、株価上昇以上の意味を感じます。
増資の歴史も、低迷した時間も消えません。
リーマン前から銀行株を持ち、低迷期にも買い増してきた自分にとって、三菱UFJの時価総額1位は、「銀行株が再び評価される時代になった」ことを実感する出来事でした。

















